遺言の基礎知識

遺言とは何かを考える

遺言を残す?残さない?

静かなブームともいえる遺言。テレビや新聞・雑誌でも目や耳にすることも多くなり、興味・関心を持たれている方も多いのではないでしょうか?かつては、遺言は「縁起が悪い」と考えられがちでしたが、近年ではむしろ人生を振り返るためのひとつの活動というプラスイメージでとらえられるようになってきています。そして、遺言は、相続や成年後見制度を考えていくうえでも非常に重要な役割を担うこともあります。

しかし、実際に遺言を残すかどうかとなると話は別なのかもしれません。遺言への興味・関心を持ちながら、けれど結局のところ自分には必要ない気がするという、もやもやした気持ちで過ごされている方が多いのも事実です。これは遺言に対するイメージは良くなってきたものの、まだまだ遺言というものが誤解されているからに他なりません。

代表的な事例をいくつかみていきたいと思います。

ケース1.たいした額の財産ではない
法務省司法統計「遺産分割事件の財産額」によると、1千万円以下でもめるケースが全体の役3割を占めているという統計データが出ているほどです。ご自身は少額な財産だから遺言など必要ないと思っていても、承継する側にとっては大きな額ということはよくあることです。

ケース2.我が家は円満にいっている
民法882条によると、相続はご自身が死亡したときに発生します。ご自身がいない家族を想像してみて、少しでも不安をいだくようであれば遺言を残すことを検討する必要があるといえます。

ケース3.まだ遺言を残す時期ではない
病気や高齢のときに残した遺言は、遺言能力に疑いありとされ無効になる場合があります。また想像以上に労力を必要とする作業ですので、心身の状態が良いときが遺言作成には適しているといえます。

このように遺言を残すということは、同時に「財産」「家族」「人生」を振り返り、考え、そして整理することでもあります。大変な労力を使う作業ですが、きっとご自身にとって有意義な時間になると思います。

 

遺言の方式

普通方式の遺言には、本人を筆者とする「自筆証書遺言」、公証人を筆者とする「公正証書遺言」、筆者の不特定の「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれ特徴があり、作成方法も異なっています。一般的には、自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかを選択することがほとんどです。
それぞれの遺言方式の特徴と作成方法は下記の通りです。

 

▪自筆証書遺言

遺言者であるご自身が、「全文」「日付」「氏名」を自書して「押印」します。ご自身で書いて作成するため公証役場の費用が掛からず手軽な半面、紛失や偽造・変造、隠匿・破棄の危険があります。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

 

▪公正証書遺言

証人2名立会いのもと、公証人が読み上げる遺言書の内容を遺言者が確認し、内容に間違いがなければ遺言者・公証人・証人がそれぞれ署名・押印します。作成に手間がかかり手数料が発生しますが、遺言の内容がほぼ確実に実現される可能性が極めて高いといえます。

公正証書遺言のメリット・デメリット

 

▪秘密証書遺言

遺言者が証書に署名・押印し、その証書を封じ、証書に用いた印章で封印します。遺言者が、公証人1人および証人2名の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨並びにその筆者の指名及び住所を申述します。そして公証人が、その証書を提出した日付および遺言書の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに証明・押印します。 遺言の存在を明確にしてその内容の秘密が保つことができ、また公証されているから偽造・変造の恐れがありません。しかし、公証役場では遺言書の保管を行わないので、紛失・未発見の危険があります。

秘密証書遺言のメリット・デメリット

 

 

遺言方式の選び方

では実際に、どの遺言方式を選択すればいいのかということになります。特徴や作成方法でみていただいたとおり一長一短な部分があり、選ぶだけでも一苦労かもしれません。しかし、最初にも述べましたが、一般的には自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかを選択することになると思います。秘密証書遺言は、遺言書作成には費用をかけたくないが、病気等で自書が困難な場合や、あるいは毎年遺言書を書き換えるなど、頻繁に撤回する予定がある方が作成費用を抑えたい場合でないと、選択されることはほとんどありません。

自筆証書遺言の長所は、ご自身で書けるという手軽さにあります。しかし、自分ひとりで作成するため、本人の意思で作成したことを立証するのが困難という短所もあります。そして、残された子どもや配偶者等の受遺者が遺言執行をするには家庭裁判所に申立てをし、検認を受けなければなりません。結果的に、執行までに時間がかかってしまい、受遺者に負担がかかることになってしまいます。

一方で、公正証書遺言はというと、必要書類の準備、公証人との打ち合わせ等の時間と手間、そして手数料等の費用がかかる方式です。しかし、より確実に自分の思いを実現したいと願えば、時間と手間・費用をかけても公正証書遺言を作成するだけの価値があります。

難しく考えすぎず、少し具体的に未来のことを思い描いてみるといいかもしれません。